研究室紹介

教育哲学研究室

 教育哲学は、教育を成り立たせているものは何か、教育を形作っているものは何かを問い直すことで、教育の不思議さ、子ども・人間が世界で変容していくことの不思議さを大切にしながら、教育という営みそのものに迫る学問です。実験データのみに基づいて証明・説明できないこと、例えば教育の根本的な目的や、子ども・人間が教育する/されることの意味、また子ども・人間が精神的・芸術的・道徳的・超越的に変容するあり方などを、考察しています。

 

 京都大学の教育哲学研究室は、大きく4つの特徴をもっています。


(1)現代哲学・思想と近代哲学をともに重視する

教育や人間形成を考えるにあたり、現代哲学・思想を単に手がかりにするだけでなく、その現代哲学・思想と密接なつながりのあるドイツ、フランス、英米を主とした豊潤な近代哲学を同時に吟味しながら、これからの教育と人間形成のあり方を批判的に検討しています。


(2)地理学や人類学の知見を柔軟に取り入れる

地理学や人類学の知見を柔軟に取り入れることで、子どもや人間の教育や人間形成にとどまらず、動物や植物の変容のあり方、また世界の自然やそこでの人間の文化的事象など、人間にとどまらない世界の事象を考慮に入れながら、教育を考えています。また、とくにドイツで盛んに行われている、歴史人類学・歴史的人間学・教育人間学の儀礼研究や質的研究、フィールドワークも取り入れています。


(3)京都学派の教育哲学を西洋近現代の哲学を踏まえて考究する

京都学派の哲学・教育学は、日本という独自な地理的・文化的場所で行なわれる教育の基盤をなすものとして、重要な位置を占めています。このような京都学派の教育哲学を、単に日本的なものと括るのではなく、京都学派の哲学者が影響を受けてきた西洋哲学、とりわけ西洋近現代の教育学・哲学との関連も大切にしながら、検討を試みています。


(4)理論と実践の有機的連関を重視する:公教育の学校やオルタナティブ教育に注目する

教育哲学は、決して教育実践と切り離された理論ではありません。歴史的に見ても、スイスが生んだ世界的教育学者・ペスタロッチは、自ら孤児院で子どもたちを長年にわたって教えながら、自らの教育理論を練り上げましたし、アメリカを代表する教育学者・デューイも、シカゴ大学付属の実験学校で、教育実験を行いながら、自らの教育哲学を生み出しました。そのような認識から、本研究室の教育哲学は、保育園・幼稚園・学校をはじめとした教育の現場における教育実践とのつながりの中で、そこから現れる教育を理論化し、またその理論を実践へと応用する、という循環の中で教育を有機的に新たに捉えることを重視しています。このような観点から、単に公教育のみならず、新たに創出されているオルタナティブ教育にも注目しています。


◎国際的に複数主義的な視点から教育を考える:ドイツの大学との研究・教育交流

 最後に、本研究室のもう一つの特徴としては、国際的に複数主義的な視点から教育を考えることが挙げられます。英語圏の文化に入り込みながら英語の文献を読んだり、英語で論文を執筆し、議論したりすることは、とても大切です。このことを大前提として、しかし英語圏の文化と日本の文化だけでは、二元的な枠組みを脱することがときに困難です。もう一つ以上の別の視点をもつことで、多元的・複数主義的な思考がよりしやすくなります。本研究室は、ドイツ・ドルトムント工科大学教育・心理・社会学部と密な研究交流、共同研究を行うことで、教育を英米圏のみならずドイツ語圏というフィールドももちながら、多面的に考えることができる場を保障しています。具体的には、京都とドルトムントの合同ゼミを開催したり、年に1回どちらかの国で研究ワークショップを開催したり、また院生間のインターンシップ研究交流を行なったりしています。これらの交流では英語とドイツ語両方の言語を用いながら交流しています。


〔近年の卒業論文〕

「教育権理論における「親」の批判的検討―M. Minowの関係的権利論を手がかりとして―」

「ランシエールの「普遍的教育」における教師の役割」

「カントの道徳教育における協働的な学び―「理性の公的使用」を手がかりに―」

「インクルーシブ教育における「平等」に関する一考察―ケイパビリティ・アプローチを手がかりにして―」

「学校教育における協働的な演奏行為は何を生み出すのか―木村敏の思想を手がかりにして―」

「トリートメントとエンハンスメントの間:ADHDを巡る状況からの分析」

「建築教育の教育思想―AAスクールを例に」

「ハイデガーにおける自他関係―『存在と時間』における共同存在論を手がかりにして―」

「シュタイナー教育はいかにして子どもの創造性を育むか―その芸術体験を手掛かりにして―」

「わたしたちのための演劇―現代演劇の上演の成立と一時的共同体の形成」

「視覚言語としての手話と情念―ルソー『言語起源論』を手がかりに」



〔近年の修士論文〕

「『怠惰』概念の教育学的意義の研究―シオランの思想に着目して―」

「音楽的行為における「沈黙」の役割―R.M. シェーファーの沈黙概念を手がかりに―」

「教育における「気分」と「出会い」―ハイデガーとボルノウを手掛かりにして―」

「保育における絵本読み聞かせ活動の役割―歴史人類学の〈儀礼〉概念を手がかりに―」

「「多様な学びの場」再考ーインクルーシブ教育における同化と異化ー」

「AI(Artificial Intelligence)に対する現代人の意識―日中の若者を中心とした聞き取り調査を手がかりとして」

「レトリック的思考の人間形成的意義―三木清を手がかりに―」

「「他者と共に/のために呼応する教育学」構想―P. リクール思索の「隠喩論」と「他者論」の間を巡って―」

「ヒューム『人間本性論』における「共感」―自己のあり方をめぐる問題―」

「学校日常における教育文化の形成―ほめること・叱ることをめぐる歴史人類学的考察―」


【主な卒業・修了後の進路】

大学教員、大学院進学(修士課程、博士課程)、国公立小学校・中学校教諭、私立中学校・高等学校教諭、国家公務員(法務省、家庭裁判所調査官)、キーエンス、日本電産サンキョー、コクヨ、コムチュア